■散骨とは?

散骨とは、一般的には亡くなられた方のご遺体を火葬した後、遺骨を粉末状にして海、空、山などに撒き、自然に還す葬送方法のことを言います。

他の動植物がそうであるように人間も自然界の一部であり、死後自然に還ることは決して不自然な発想ではありません。自然であるからこそ、アジア、アメリカ、ヨーロッパなどの諸外国でも広く行われており、歴史を遡ると太古の昔から行われてきているのです。

日本の場合、万葉集の中で、「秋津野を人の懸くれば朝蒔きし君が思ほえて歎きはやまず 玉梓の妹は珠かもあしひきの清き山辺に蒔けば散りぬる」と、夫が妻の遺灰を山中に撒いた時の、まさに散骨の歌が詠まれています。

続日本後紀でも、淳和天皇が「宜シク骨ヲ砕キテ粉ト為シ、コレヲ山中に散ズベシ」と、皇太子に遺言していたことが記されています。承和7年(西暦840年)ということですから、今から1200年近く前の記録ということになります。

■ご遺体・ご遺骨の様々な葬送法

・土葬・・・土葬とはご遺体をそのまま土に埋めることです。古いところでは、歴史の授業で習ったネアンデルテール人によるものがあるそうですから、数万年前から行われていた方法ということになります。火葬に対して否定的なキリスト教、イスラム教、儒教などでは、土葬が行われることが多いようです。

・火葬・・・ご遺体を焼却する日本で最も一般的な方法です。諸説ある中、仏教と共に5世紀に伝わったという説が有力で、お釈迦様が火葬されたことにちなんでいます。火葬と同じ意味で使われる「荼毘にふす」はインドのバーリ語に由来している仏教用語だそうです。仏教、ヒンドゥー教では認められていますが、儒教、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教は火葬に否定的な立場をとっています。

・水葬・・・ご遺体をそのまま海や川に沈める方法です。有名なのはヒンドゥー教による水葬で、インドのガンジス川流域で執り行われるものです。また、洋上での死者でご遺体の搬送が難しい場合にも行われています。日本でも航行中の船内で死亡した場合に船長の権限で水葬を行える場合もありますが(船員法15条)、そうでない場合は刑法190条の死体損壊罪に当たります。

・鳥葬・・・主にチベット仏教において行われることが多い方法。もし日本で行うと刑法190条の死体損壊罪に抵触する恐れがありますが、チベットでは現在も行われています。葬儀を終えた後、魂が解放された遺体は肉の抜け殻に過ぎないという考え方から、郊外の荒れ地に設置された鳥葬台に運び、鳥類に食べさせるのです。宗教上は遺体を「天に届ける」ことを目的としているので、中国語では天葬、英語ではSky Burialと呼ばれています。

・風葬・・・風葬とは、ご遺体を風にさらして風化を待つ方法で、世界各地で行われています。日本でも昔は沖縄や奄美地方で行われていましたが、現在は行われていません。比較的よく知られているのはインドネシアのスラウェシ島高地部に住むトラジャ族やボルネオ島のイバン族などの風葬あたりですが・・・。ご存じない方の方が多いでしょうか?

・洗骨・・・洗骨とは、一度土葬や風葬を行った後に、その骨を海水や酒などで洗い、再度埋葬する方法です。一般的にはあまり馴染みがないと思われていますが、中国をはじめ、北米先住民、アフリカ、インド洋諸島、東南アジア、オセアニアなど、世界各地に存在しています。仙骨を行う理由は、一度埋葬しただけでは死霊のままで存在し続けてしまい、子孫に病や死をもたらしてしまうためだそうで、洗骨することによって子孫に幸福をもたらす祖霊になるという考えからのようです。

・冷凍葬・・・冷凍葬とは、最も歴史の浅い方法です。ご遺体を死後1週間以内にマイナス18度で凍らせ、とうもろこし等のでんぷん質の原料で作られた棺に納めてからマイナス196度の液体窒素に1時間ほど浸します。その後、棺ごと振動させるとご遺体が粉末状になりますので、そこから歯などについていた金属類を取り除き、乾燥機にかけて水分を飛ばせば完全な粉末となります。これは食品にも使われるフリーズドライ技術の応用編です。粉末化したご遺体は、別のでんぷん質の棺やツボに入れて、地中50センチほどの深さに埋めれば、半年か1年ほどで棺・ツボごと堆肥化するそうです。この方法はエコ先進国のスウェーデンの会社が開発したもので、火葬の際のエネルギーコストを大幅に削減できる上、粉末状のご遺体には匂いがなく、自然にも還りやすいということで、エコ葬儀の方式として注目を浴びているとかいないとか・・・。

?火葬後の遺骨の葬送法?

・宇宙葬・・・故人の遺骨などをカプセル等に納めて、宇宙空間に散骨する方法です。米国のセレスティス社のみ実績があるようですが、費用が高額な上にスペースデブリ(宇宙ゴミ問題)の観点から賛否があります。

・樹木葬・・・墓碑として、「墓石」ではなく「樹木」を指定した葬儀の方法です。墓地、埋葬等に関する法律による認可を得た墓地や霊園でのみ行うことができます。樹木の種類は低木が一般的で、ハナミズキやサルスベリ等を墓碑に用いるケースが多いようです。ペットなどの動物葬でもよく行われますよね。

現在の日本では、ほぼ火葬後にお墓へ埋葬する方法がほとんどですが、時代の流れとともに散骨を選ぶ方が徐々に増えてきました。世界に目を向けると様々な方法がある中で、散骨は決して不自然な行為ではありません。故人様、ご遺族様のご意向があれば、選択肢の一つとしてお考えください。

■散骨の手順

(1)故人の意思確認と遺族・近親者の合意
第一に尊重されるべきは故人の意思だと思います。自身の死後に散骨を望む場合は、あらかじめ話し合っておくことや遺言書などで遺族・近親者が納得できるよう事前準備が必要です。事前準備がなく他界された故人の散骨を遺族が検討する場合、故人が海や釣り、クルージングが好きだったという理由からご遺族様で決定される例もあります。

(2)場所の決定
故人の希望があれば、その場所を最優先に調整する必要があります。散骨を希望しても場所まで希望していない場合は、故人ゆかりの地・海や、故人のイメージに相応しい場所の選定が必要になります。専門業者等とも相談して、散骨可能な場所を決定していきましょう。

(3)日時・交通手段の決定
海への散骨は交通手段の確保がとても重要です。天候によって船を出せない場合もありますから、多少余裕のある予定を立てましょう。こちらも遺族・近親者間でしっかり話し合う必要があります。

(4)粉骨
ご遺骨をそのまま散骨してしまうと刑法で罰せられる可能性があります。散骨するためには、遺骨を粉砕する「粉骨」という作業により粉末化する必要があります。一般的には砂粒程度の大きさに砕くことができれば十分だと言われています。粉砕した後は、水溶性の紙袋に入れれば準備完了です。ビニール袋だとそのまま海に撒くことができませんし、静電気でくっついてしまいます。ご遺族様が自身で行うこともできますが、気持ちの面で抵抗のある場合や道具を用意できない、砕いた後のご遺骨を入れる水溶性の紙袋を用意できない場合などは、専門の業者に依頼するのが良いと思われます。

(5)実施
(1)?(4)までしっかりと出来ていれば、あとは実施するのみです。散骨をするにあたっては、埋葬許可証も分骨証明書も必要ありませんので、法的手続きの心配もありません。但し、万人が散骨賛成派ではないことを考慮して、以下のマナーを守るようにしましょう。

a. 密やかに執り行う
散骨は一般的な葬儀に比べて、ごくごく私的なイベントになります。ご遺族を含め、故人とごく近しい人のみで、ひっそりと執り行いましょう。

b. カジュアルで
散骨は形式ばった葬儀とは異なり、喪服を着用する必要がありません。密やかに取執り行うという観点からも、葬儀感を出さないようカジュアルな平服で参加しましょう。

c. 私有地に勝手に撒かない
海ではなく、地面に撒く場合は場所に気をつけましょう。当然のことながら、他人の所有地に撒く行為は言語道断です。

d. 海での散骨は沖合に
海岸や防波堤から撒くと、ゴミの投棄と思われかねません。また、故人が海に散骨してほしいと思う場合、大海原をイメージする場合が多いと思われます。散骨業者ともよく相談して、少なくとも10?20キロ程度の沖合に出てから散骨しましょう。

e. ご遺骨を直接撒かない
粉砕したご遺骨が、風に舞って海に散っていく・・・。というイメージを持っていらっしゃる方が多いのですが、波で船は揺れますし、風も吹いているため、自身の方へ風で舞い戻されたり、船の甲板に撒かれてしまうこともあります。散骨の際は必ず水溶性の紙袋に入れて、紙袋ごと海に投じましょう。

f. 海外での法的規制
日本の場合、散骨の事業者の自主規制によるルールこそあれ、法的にはきっちりとした規制がないのが現実です。ところが海外の場合は、国によって散骨に関する法律・条例が定められている場合もあります。散骨をする国のルールを調べ、できる限り現地の専門業者を利用することによって、気持ちよく散骨を執り行いましょう。郷に入っては郷に従え!です。

■散骨の法的制約

散骨に際しては、「墓地、埋葬等に関する法律」と「刑法190条」の2つを理解しておく必要があります。少し難しい話ですが、ここは我慢して概要を理解しておきましょう。

・「墓地、埋葬等に関する法律」
1948年に制定された法律で、墓理法、埋葬法などと省略される場合もあります。この法律は、墓地、納骨堂、火葬場の管理及び埋葬などが、国民の宗教的感情に適合しているかどうか、また公衆衛生やその他公共の福祉的見地から、問題無く行われることを目的として制定された法律です。

この法律では「火葬」を前提とし、火葬後の埋葬や墓地に関して規定しているのみで、散骨に関しては特段の規制を設けていません。第四条一項に「埋葬又は焼骨の埋蔵は墓地以外の区域に、これを行ってはならない」との記述がありますが、厚生省生活衛生局は「墓埋法は散骨のような葬送の方法については想定しておらず、法の対象外で禁じているわけではない」との見解を出しています。

すなわち散骨は「墓地、埋葬等に関する法律」では言及していない事象であり、実施者の良心と節度ある行動に重大な過失がなければ、特に問題視しません、と言っているのです。

・「刑法190条」
条文「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。」


例えばハイキング中に、もし粉骨されていない白骨が発見されてしまったらどうでしょうか。仮に埋葬されたものだとしても、翌朝のメディアに「山中で白骨死体発見!」という見出しが載るのは間違いがありません。死体遺棄罪や遺骨遺棄罪に問われる可能性が出てきてしまいます。

法務省は非公式ながら「刑法百九十条の規定は社会的風俗としての宗教的感情を保護するのが目的だから、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題ない」というコメントを出しており、粉骨をしない、人目に付きやすい場所に撒く、などのマナー違反がない限りは黙認の姿勢をとっています。

■散骨した著名人(以下全て敬称略)

さて、これだけ色々と記述をしましたが、散骨は未だ一般に浸透した方法とは言えません。一方で数多くの著名人が散骨を選んでいます。その一部をご紹介します。

・石原裕次郎・・・昭和を代表する大スターも散骨をしていたようです。湘南の海が好きだった裕次郎のために兄の慎太郎が願い出たところ、当初は許可が下りなかったそうです。1991年になって法務省から「節度を持って行われる限り問題無い」という見解を得て、密かに執り行われたようです。近年日本の海洋散骨を切り開いたと言えます。

・横山やすし・・・こちらも漫才界の大スターです。こちらは一風変わった場所、BOATRACE宮島でお馴染みの宮島競艇場にて「散骨の儀」が執り行われたのです。ボート好きだった故人の強い意志により実現したそうで、愛艇を置いていた当地が選ばれたようです。「らしい」散骨だと思います。

・立川談志・・・天才落語家も海での散骨を希望したそうです。どこまで本当かは不明ですが、親交の深い弟子だった高田文夫がラジオ番組の中で「散骨した直後に魚が集まってきて、撒かれた骨を食べてしまった」とコメントしています。自然に還るという意味では、魚に食べられることは本人にとっても望んだことだったのではないでしょうか。

・勝新太郎・・・数多くの伝説が語り継がれる大物俳優の勝新太郎もハワイのワイキキ沖に散骨されています。ハワイは散骨に関して規制がありますから、きっと専門業者さんに依頼して、執り行われてことと思います。

・アルベルト・アインシュタイン・・・相対性理論で有名なアインシュタインです。そんな大天才も亡くなる直前に散骨を強く希望し、ご遺族によってデラウィア沖にご遺骨が撒かれたようです。

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